「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」は小説を原作とした架空の世界のファンタジー作品で、人と人との関わり合いの機微を描いた傑作です。
京都アニメーションでは、アニメの原作となる物語を一般から募集しています。京都アニメーション大賞です。この賞からアニメ化された作品としては、第1回(2010年)の奨励賞「中二病でも恋がしたい!」、第2回(2011年)の奨励賞「境界の彼方」同じく奨励賞「ハイ☆スピード!」があります。
去年の第10回までで、最高賞である大賞を受賞した作品は、ひとつしかありません。見合うものがなければ、大賞どころか、奨励賞も該当作なしの年もあります。そのたったひとつの大賞が「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」でした。
第5回(2014年)で大賞を受賞し、翌年2015年に、小説として出版されます。アニメ化は、3年後の2018年になります。京都アニメーションが育てた原作が、アニメとして花開いていく様は、フットボールチームで、幼かった選手が下部組織で鍛えあげられ、トップリーグで活躍するかのようです。「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」は、京都アニメーションの生え抜きの作品とも言ってもいいかもしれません。
「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」には、次の作品群があります。Netflixで配信されているので、ぜひこちらを先に観て欲しいです。なぜなら、これらの作品群を見た上で、予備知識なしで鑑賞した私が感じた思いを味わって欲しいからです。
- 「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」TVシリーズ全13話 (23分×13)
- 「ヴァイオレット・エヴァーガーデン スペシャル」TV全1話 (34分)
- 「ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-」映画 (90分)
ヴァイオレット・エヴァーガーデンとは、少女の名前です。ヴァイオレットは、戦争で兵器として育てられ、心を育むことをおざなりにされました。人の気持ちも、自分の気持ちも言葉にすることが苦手です。ほとんどできません。戦争が終わり、役目を失った彼女が、手紙の代筆というもっともふさわしくない仕事を通じながら、様々な人の心にふれながら成長してゆく物語です。
気持ちを言葉にするのは難しく、ところが気持ちは言葉にしなければ、誰かに伝えることができません。普段の生活では、家族でも、社会でも、誤解の上に成り立っている関係もあるでしょう。かえってそのおかげでうまくいくこともあります。正確に伝える必要はないかもしれません。
もしも、切実にどうしても伝えたい気持ちがあったら、どうしたら良いのでしょう。どうしたら、届けられるのでしょう。人が気持ちを裸にする人生の節目に、ヴァイオレットはやってきます。
私は、昔から本音を口にするとつい涙が出てしまうので、なかなか本音を口にすることができません。本音の言葉とは、何も特別な言葉ではないことの方が多いように思います。言えなかった言葉は「ありがとう」だったり、「ごめん」だったり、ありきたりの言葉がどうにも胸に迫ってしまうことがあるのです。どうにも胸に迫ってしまって言うことができないのです。伝えることができないのです。それゆえ、スクリーンの向こうで綴られるヴァイオレットの言葉に、自然と涙が流れてしまうのです。
器用で要領の良い人と不器用な人を会社でも学校でも時折見かけます。不器用な人は、最初の歩みこそ遅いかもしれませんが、基礎をしっかり身につけることで、成長曲線が指数関数的にぐんぐん伸びてゆくことがあります。そんな愛すべき不器用さをヴァイオレットは持っています。器用な人のように、すぐに受け入れられないかもしれません。ですが、物怖じすることなく様々な障壁にぶつかりながらも、誠実に歩み続ける姿勢に羨望のまなざしを持たずにはいられません。
自分を愛せなければ、他人を愛することはできない。自分の心を理解できなければ、相手の気持ちも理解できない。とは、よく言われることですが、ヴァイオレットは、まったく逆のプロセスで自分自身への理解を試みます。他人への理解が、自分自身への理解につながってゆく様は、普段の私たちの生活にも気づきを与えてくれるかもしれません。
TVシリーズのエンディングテーマ「みちしるべ」(唄:茅原実里 作曲:菊田大介 作詞:茅原実里)が、この作品の世界観を深く決定的に表現しています。素晴らしい作品の多くは、映像と音楽が奇跡的なコラボレーションをしています。この作品も例外ではありません。
初見から1週間後に、2度目の鑑賞をしました。チケットは完売で、なんとか取れた席は2列目でした。大きな画面を140分間、見上げ続けましたが疲労を感じることもなく、まわりのすすり泣きにつられたのか、2度目にもかかわらずやはり涙を流してしまいました。
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