『ジョーカー』僕はタバコが吸いたくなった。

本作品を観て、僕はタバコが吸いたくなった。

主人公がタバコを吸うシーンが非常に多く、しかもこれまた美味そうに吸うのだ。僕が元喫煙者というのもあるのかも知れないが、とても吸いたくなった。

僕は『バットマン』を観た事がなく、ジョーカーがどのようなキャラクターか知らなかった。また主演のホアキン・フェニックスも知らなかった。

無知の真っ新なキャンパスの状態の僕が感じた、本作品の魅力を挙げていきたいと思う。
※ネタバレあり

目次

1. 物語に引き込まれるホアキン・フェニックスの凄まじい演技力

重いトーンで物語は始まる。主人公の名前はアーサー(ホアキン・フェニックス)。少年達からの暴行、自身が抱える心の病、母親の介護、失業、自身が犯す殺人。正直、僕は辛くて見ていられなかった。軽い吐き気さえ覚えた。開始から物凄い勢いで物語に引き込まれた。没入した。ホアキン・フェニックスの演技力が凄まじいのだ。凄まじさは最後まで続いていく。

ある一定の緊張した状態に立たされると笑ってしまう心の病。本人は笑いたくて笑っているわけではないのだが笑ってしまう。絶妙な演技だった。泣いているかのように笑うのだ。

コメディアンとしてステージに立ち、緊張に震える姿。なんとかセリフをしゃべるも場が騒然となってしまう。緊張で早口になり最後は小声になってしまう。至高だった。臨場感溢れる演技で見ているこちらが脇汗をかいてしまう。

物語後半、彼が尊敬するマレーの番組に出演する際の登場の仕方をイメージトレーニングする。挨拶の仕方を何度も練習する。声のトーンやイントネーションを変えて試してみる。本当にイメージトレーニングしている人を覗いているかのようだった。

これらホアキン・フェニックスの凄まじい演技力によって僕はこの物語の世界に最後まで引き込まれた。

2. 芸術作品を彷彿させる美しい構成

物語の終盤、アーサーが踊りながら階段を下りるシーン。本作品の中でもっとも印象的な美しい場面と言っても過言ではないだろう。この階段は物語の冒頭で2回登場している。2回とも真っ青な薄暗い中、悲壮感に押しつぶされそうにアーサーが階段を登っている。

しかし、物語の終盤では、陽気な音楽が流れながら眩しい日差しの中、お気に入りのスーツに身をまとったアーサーがタバコをふかし、解放感に浸りながら階段を降りている。映画の冒頭と終盤では、進行方向もアーサーの心境も正反対なのだ。

母親が入院していた精神病棟でカルテを盗んで階段で読むシーンがある。カルテにはアーサーが信じていた事と真逆の内容が記載されていた。そう、母親は精神病を患っており妄想癖があるという診断だ。

正直、僕はこのカルテを見た時点では「カルテを改ざんしてあるだけで、アーサーが信じているように真実は母親が言っている事なのではないか」との可能性を考えていた。

ところが、ここでカルテの記載通りに母親と医者が面談している過去の回想シーンが始まる。現在のアーサーがその母親を見つめて真実を受け入れる。この場面がある事でカルテの記載が真実である事が裏付けられているのだ。

物語の冒頭でマレーの番組にアーサーは出演する。マレーを尊敬して止まないアーサーの妄想である。

しかし、物語の終盤でマレーの番組に出演する事が現実となる。尊敬とは正反対の感情を抱いて。そしてマレーを殺してしまう。

正反対の情景や観客の視点に立った場面、これらの構成がとても美しいと思った。映画というよりも芸術作品に近いと感じた。

3. 心の病とは病なのか

アーサーは一定の緊張感や不安に駆られると笑いが止まらなくなってしまう心の病を持っている。どのような経緯で病を持つようになったのか明確に表現はされていないが、子供の頃の虐待によるものというのは分かる。あと母親から『あなたが笑うとみんなが幸せになる』と言い聞かされ続けてきたからだろう。

発症した時のアーサーは笑っているが、とても辛く泣きそうな目で自身の笑いを抑えようとする。アーサーは病気を治そうと度々ソーシャルワーカーに通い、薬を自ら懇願して服用している。そこには病を治したいという強い意志が感じられる。

ところが、物語の終盤、心の病を持つ自分について『これが本当の僕だ』と言う。病ではないのだ。これが自分と感じているのだ。

心の病とは正常な人間があるボーダーラインを決めてそう判断しているだけであって、病と正常には境目がないと僕は思う。どちらが正常でどちらが病などという事はない。みんな誰しもが何かの心の病を持っている。

心の病とは病なのだろうか。

アーサーは心の病を受け入れたのだろうか、それとも、受け入れる作業など必要なく、心の病を自身の一部として感じたのだろうか。

終わりに

物語の中でアーサーはタバコをふかす。何度も何度も。まるで自分が抱えている不安や孤独を身体から吐き出すように。毎日を必死に足掻いて、生きている。そしてまたタバコをふかす。美味そうに。

生きている限り不安や孤独、人はそれぞれ色々な悩みを抱えている。僕もそんな毎日だ。
必死に足掻いて、生きて。その先には、アーサーのようなありのままの自分を本当の自分と思える日が、やって来るのだろうか。

僕はタバコが吸いたくなった。

この記事を書いた人

観てきた本数も少なくまだまだひよっこですが、映画の世界に思いっきり浸ろうと思います。

バンドマン。好きな食べ物はペペロンチーノとビール。

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