『SING/シング』吹替と字幕の狭間で見たもの。

前から観たいと思っていた映画『SING/シング』をようやく観る事ができた。

僕は洋画を観る時は字幕派だ。英語はサッパリできないので言葉は分からないが、役者さんから発せられる声も演技の一部であって、表情や仕草だけではなく声もしっかり堪能したいからである。というような考えは、僕が映画を見始めたばかりの頃に、誰か映画に詳しい友達などから言われたり聞いたりして、気付いたらそのような考えになっていた。特にこだわりはないけど、まず間違いなく字幕版で観る。

けれど『SING/シング』はアニメーションなのである。公開された当時、宣伝番組などをフラっと観た記憶があり、歌が上手い声優や歌手を起用している(誰かまでは覚えていない)という認識があったので、吹替版も気になっていた。「字幕版でも結局、海外の方が吹き替えしているだけだし、それなら日本の方の吹替版の方が良いかな、字幕を読まなくて済むし。」という思いに至って、吹替版で観ることにした。

観終わって僕がまず思ったこと。それは字幕版のオリジナルの歌声も是非聴いてみたい!だった。

という訳で、字幕版でも観てみた。一つの映画を吹替と字幕の両方で観たのは『SING/シング』が始めてだ。

※微ネタバレあり

まずはさらっと吹替版の感想

まずは吹替版を観た後の感想をさらっと書かせてもらいたい。

  • 映像が綺麗。
  • 動物たちがとても可愛い。
  • ネズミのマイクが腹立つけど、格好良い。
  • 声優陣の歌声が素晴らしい。誰がどの声を演じているのかずっと気になりながら観ていた。
  • 笑いが随所にある。秘書であるイグアナのミス・クローリーの目玉ネタには度々笑った。
  • キャラクター一人ひとりのエピソードがしっかり存在していて作り手の愛を感じる。
  • 丁度良いラインの王道すぎない有名曲が作中に散りばめられている。知っている曲が流れると思わず、ああ、懐かしい!と唸ってしまう。
  • 音楽を題材にした映画はパワーがある。歌と映像が見事に交わると反則的に鳥肌が立つ。
  • 坂本真綾さんが出演していた。素晴らしい声だ。その時に流れる曲が「Kiss From A Rose/Seal」名曲である。

最後の行について補足。

僕は声優の坂本真綾さんのファンである。とても素敵な芯のある声、そして透明感溢れる美しい歌声。洋画の吹替やアニメで彼女の声を耳にする事は多いだろう。またレ・ミゼラブルのエポニーヌを演じるなど実力派の歌手でもある。(坂本真綾さんについていつか記事を書こうかしら)

その坂本真綾さん演じるお母さんブタのロジーナが映画の冒頭シーンでオーディションに向かう時に流れる曲が Seal の名曲「Kiss From A Rose」だった。大好きな曲である。悲しげで儚いがどこか可愛らしさを感じさせるメロディ、それを鉄のような真っ直ぐに空を切り裂くSealの歌声。

まだ映画は始まったばかりの段階なのだが、この「坂本真綾さん登場」→「Kiss From A Rose流れる」の追い打ちで僕のHPはほぼ0になっていた。

観た後は元気がもらえて明日への活力になった。あと、やはり歌は良い。ライブ観に行きたいな、早くコロナ落ち着かないかな、とも思った。

そして字幕版を観る

数日後に字幕版を観た。

字幕版で観たいと思った理由は上の章でも書いたが、オリジナルの歌声もすごく聴いてみたかったからである。日本語の吹替とはまた一味違ったニュアンスできっと心揺さぶられるんだろうななどと考えていた。

あと吹替版を観ていて、字幕版ではどうなっているのか?と少し気になった点もあったからだった。

  • 時折洋楽のBGMが登場するが、日本語の歌から洋楽に切り替わるとその変化に僕は違和感があった。字幕版だと全て洋楽になると思うので違和感はなくなるのだろうか。
  • 5匹のレッサーパンダのキューティーズは日本語が上手くない外国の方がカタコトで日本語を話しているキャラだったが、字幕版だと何語になっているのだろうか。カタコトの英語なのだろうか。
  • きゃりーぱみゅぱみゅの楽曲が数曲登場したが字幕版だと何の曲なんだろう。吹替版だから日本の曲であるきゃりーぱみゅぱみゅに差し替えられていると思うので。

だが、実際に字幕版を観て僕が感じたものは、予想していたものと違っていた。正直なところ、字幕を読まなくて済むの一点で吹替版に軍配が上がると思っていたのだが、そういう訳でもなかった。アニメーションと言えど吹替版と字幕版どちらにも良さがあり、また両方を観たことで見えたものがあった。

吹替と字幕の狭間で見たもの

以下に記載したのはあくまで『SING/シング』に限って、僕が感じたことである。

その1 吹替版で良かったこと

字幕を目で追う必要はなく、キャラクターの動きを存分に視界で捉える事ができ、そして耳からは自分が理解できる言葉で情報が入ってくる、純粋に映画を楽しめる部分だろう。これに尽きる。そしてこれが大きい。

その2 字幕版で良かったこと

a) 声よりも入ってくる情報が正確

吹替版では良く聞き取れないような部分がたまにあったのだが、字幕が表示されるため、会話が身に入ってきてストーリーを理解しやすい。例えるならば、仕事などでよく何かを依頼する際に口頭ではなくてメールで頂戴、みたいなものだ。

これは登場人物の名前についても同様だった。僕は吹替版を観た後、登場人物の名前を全然覚えていなかった。現実世界では人の名前を覚えるのは得意なタイプのはずなのだが。しかし、会話から名前を把握するというのは意外と難しいようで、ロジーナ?ロザーナ?と言った感じで、最後まで名前があやふやだった。字幕版では正しく名前を把握できた。というより、字幕版を観て僕はようやく名前を把握した感じだ。

b) 看板やノートのメモなど文字が登場する場面でその意味が分かる

吹替版だとムーン劇場の看板には英字が書かれていて良く分からなかったのだが、字幕版だとそのタイミングで「~開演中。」などの字幕が表示されており、あ、シーン毎に看板の記載が変化しているんだなと理解する事ができた。クマのジョニーが盗みに入った時のオーディション審査のメモなども同様だ。会話だけでなく、登場する文字の意味が分かった。

その3 吹替版と字幕版から浮かび上がったこと

a) 吹替版は本家のキャラクターを見事に真似て演じていた

吹替版で観た色々なキャラクター。キャラクターによっては話し方や声色、トーンが違う。吹替版は本家のキャラクターを見事に真似て演じていた。英語を話しているキャラクターの声色とそっくりなのだ。だいたい似せてあとはその声優の個性で演じていると思っていたがそうではなかった。ものすごく本家を勉強してから吹替へ臨んでいると思う。声優のプロ魂にすごく感動した。

b) 日本の楽曲は洋楽カバーが多い

作中に荻野目洋子のヴィーナスが流れた。ほう、吹替版だから曲も差し替えているのかなと思っていたが、この曲は字幕版でも変わらず登場する。そう、Shocking Blue の Venus という曲のカバーであるという事を調べて知った。少し前の USA/DA PUMP や GOLDFINGER ’99/郷ひろみ などの曲はカバーだと分かっていたが、結構昔からカバー曲が多かったとは思わなかった。ちなみに、字幕版だと時折登場する洋楽のBGMの変化にはやはり違和感はなかった。

c) きゃりーぱみゅぱみゅってすごい

字幕版の方でもきゃりーぱみゅぱみゅの曲が流れていた。どうやらこの作品では吹替版と字幕版で曲の差し替えは全く行われていなかった(どの吹替もそういうものなのかも知れないが)。ともあれ、オリジナル版で日本の曲としてきゃりーぱみゅぱみゅの曲が起用されているのである。きゃりーぱみゅぱみゅってすごい。久しぶりに聴いてみようかなと思った。

d) キューティーズは字幕版では日本人だった

てっきりカタコトの英語を話すキャラを予想していたが、普通に日本語を話していた。つまり字幕版では日本人という設定なのだ。作中だと言葉が通じないお茶目な外国人キャラ(アメリカ人からすれば日本人は外国人)なので、吹替版ではカタコトの日本語にして外国人という設定にしたのだろう。(アジア系の方が日本語を話しているようなカタコト日本語だった) とりあえず、キューティーズはきゃりーぱみゅぱみゅを歌っているので、字幕版で日本人という設定は筋が通っている。

感動した

吹替と字幕の狭間で見たもので、僕は感動してしまった。おそらくもっと掘り下げると今度は利権やしがらみなど曇ったものが色々見えてくるのだろう。ひとまずここまでにしておこうと思う。

終わりに

当初は吹替版を観終わった時に感想を書こうと思っていたのだが、字幕版を観たことで見えたものを書きたくなった。

狭間に立って見えたものは、吹替版/字幕版のどちらが良いとかではなく、映画の作り手の努力や情熱だった。すごく感動した。相乗効果で片方を観ればもう片方の良さを感じる。僕はこの作品に近付いて何かを自分の一部にする事ができたような気がする。それはきっとここまで書いてきた沢山のものだと思うが、敢えて一言で言うと「情熱」な気がする。

真剣に一点に情熱をそそぐ事で良い作品が出来上がっていくと思うし、誰かの人生においてはその人が望む道を前進するための原動力になるのだと思う。

今後も気に入った映画があれば、吹替と字幕の両方を観てみようと思っている。

この記事を書いた人

観てきた本数も少なくまだまだひよっこですが、映画の世界に思いっきり浸ろうと思います。

バンドマン。好きな食べ物はペペロンチーノとビール。

コメント

コメントする